【2025年最新】AIインベントリの作り方|監査リスクを1週間で解消する実践手順

野放しのAI利用は情報漏えい・監査・品質事故の温床です。AIインベントリ(台帳)を最短1週間で構築し、継続運用する実践的な方法を情シス向けに徹底解説。最小項目、3ルート収集法、更新の仕組み化まで網羅。

【2025年最新】AIインベントリの作り方|監査リスクを1週間で解消する実践手順

本記事のポイント

  • AIガバナンスは「何を使っているか」の把握から始める
  • AIインベントリ(台帳)は監査・事故対応・調達管理の共通言語
  • 最小項目と更新運用を決めれば、1週間で運用可能な仕組みを構築できる

なぜ今、AIインベントリが必須なのか

結論:AIを安全に活用するには「現状把握」が最短ルートです。

AIは導入が容易な反面、部署単位でツールやAPI利用が急増しやすく、気づいた時には「どこで、誰が、何のデータを入れて、どんな判断に使っているか」が把握できない状態に陥ります。

"見えないAI"が引き起こす4つのリスク

1. 情報漏えい

機密や個人情報を意図せず外部AIに入力してしまい、データ流出のリスクが高まります。

2. 監査対応の失敗

判断根拠、ログ、承認プロセスが説明不能となり、監査で指摘を受けます。

3. 品質事故

誤った回答を前提に業務が進行し、クレームや損失が発生します。

4. 調達の混乱

ベンダーやSaaSが無秩序に増加し、契約条件や責任分界が不明確になります。

政府のガイドラインでも、リスクの大きさに応じて対策を変える「リスクベースアプローチ」の重要性が示されています。しかし、リスクを測定するには対象が可視化されている必要があります。そこで、AIインベントリ(台帳)が土台となるのです。

基本用語の整理

用語 定義
AIインベントリ(台帳) 社内で利用しているAI(ツール・API・モデル・業務機能)を一覧化し、責任者・データの扱い・リスクなどを管理する表
ユースケース AIを「何の業務目的で、どんな入力を与え、どんな出力を、誰がどう使うか」という利用単位
リスクベースアプローチ 影響の大きさや発生確率に応じて、対策の強度を変える考え方
AIマネジメントシステム 組織としてAIの方針・目的・プロセスを整備し、継続改善する枠組み(ISO/IEC 42001として国際標準化)
AI RMF NIST(米国標準技術研究所)が公開するAIリスク管理フレームワーク

AIインベントリ構築の3ステップ

Step 1. 「AI利用」の定義と棚卸し対象の決定ツール利用・API・組み込み機能まで含めて範囲を明確化Step 2. 台帳の「最小項目」設計と1週間での完成完璧を求めず、まず動く形を作るStep 3. 更新ルールを業務フローに組み込む 申請・調達・変更管理プロセスと連動させる


実務で使える進め方(最短1週間プラン)

Day 1:対象範囲の設定(スモールスタート)

優先度1:社外にデータが出る可能性があるAI

  • 生成AI(ChatGPT、Claude、Gemini等)
  • 外部API
  • 外部SaaS
  • 外部委託先のAI利用

優先度2:社内限定でも判断に影響する用途

  • 与信判断
  • 採用選考
  • 審査業務
  • 顧客対応テンプレート生成

この順序で進めることで、事故予防の効果を早期に実現できます。

Day 2-3:3ルート収集法で効率的に情報を集める

ルート 収集方法 主な発見対象
A. 調達・経費精算 SaaS・API課金・外注費の記録を調査 契約済みサービス
B. ネットワーク・SSO・ID管理 認証ログ・連携アプリの記録を調査 実際に使用中のツール
C. 現場ヒアリング 各部署へのインタビュー 「便利ツール」「検証用」の隠れた利用

Day 4-5:台帳の最小項目設計(完璧より完成を優先)

原則:項目数を増やすほど運用が続かなくなる

最初は以下の7項目で十分です。

区分 項目 記入内容 目的
特定 ユースケース名・部署 どの部署が何に使っているか 全体像の把握
責任 業務オーナー・管理者(情シス) 担当者の明確化 問い合わせ・事故対応の起点
データ 入力データ種別 機密・個人情報・公開情報 漏えいリスクの判断
外部性 外部送信の有無・提供先 ベンダー名・サービス名 契約・越境リスクの確認
目的 出力の使い方 参考・自動処理・意思決定 影響度の判定
証跡 ログ・保存先・保持期間 記録の所在(要確認でも可) 監査・説明責任
状態 運用状態 本番・PoC・停止 鮮度維持

Day 6-7:リスク評価と更新ルールの策定

シンプルな3段階リスク評価

高度な評価は後回しで問題ありません。まず「赤・黄・緑」の3色分類から始めましょう。

レベル 判定基準 対応方針
🔴 赤(高リスク) 個人情報・機密を扱う/社外送信あり/自動判断に利用 詳細レビュー必須
🟡 黄(中リスク) 社外送信ありだが公開情報中心/出力は参考利用 定期確認
🟢 緑(低リスク) 社外送信なし/影響の小さい内部用途 簡易確認

更新運用の3つのルール

  1. 新規導入時:利用開始前に台帳登録(申請フォームと連動)
  2. 変更時:データ種別・提供先・用途が変わる際は再レビュー
  3. 定期点検:四半期に1回、部署オーナーが内容を確認

よくある失敗パターンと対策

失敗1:項目を盛りすぎて誰も記入しない

症状:30項目以上の詳細な台帳を作成したが、半分も埋まらず放置される対策: 最小項目(7項目)でスタート → 高リスク(🔴赤)のみ詳細化する二段階方式


失敗2:Excelファイルが更新されず形骸化

症状:最初は頑張って作成したが、3ヶ月後には誰も見ない・更新しないファイルに対策: 調達・SaaS申請・変更管理フローに「台帳更新」をチェックポイントとして組み込む


失敗3:「監視される」と現場が隠蔽する

症状:情シスの取り締まりと受け取られ、影で使い続ける部署が発生対策: 目的を「禁止」ではなく「安全に使える環境づくり」と明確に伝え、協力体制を構築


失敗4:PoCが知らない間に本番運用になる

症状:検証のつもりだったツールが、いつの間にか業務に組み込まれている対策: 状態(PoC/本番)と利用期限を必須項目にし、期限切れは自動的に再承認プロセスへ

実装チェックリスト(コピペして活用可)

準備フェーズ

  • [ ] 当社における「AI利用」の定義(ツール・API・組み込み)を決定
  • [ ] 棚卸し対象を「社外送信の可能性があるAI」から開始することを決定
  • [ ] 台帳の業務オーナーと管理者(情シス)の役割分担を明確化

台帳設計フェーズ

  • [ ] ユースケース名の命名規則(目的+業務+出力の使い方)を策定
  • [ ] 入力データ分類(公開・社外秘・機密・個人情報)の定義を整備
  • [ ] 外部送信の有無と提供先(ベンダー名)を必須項目に設定
  • [ ] 出力の利用形態(参考・自動処理・意思決定)を必須項目に設定
  • [ ] ログ・保存先・保持期間の記録欄を用意
  • [ ] 運用状態(本番・PoC・停止)を必須項目に設定

リスク管理フェーズ

  • [ ] 3段階リスク評価(🔴赤・🟡黄・🟢緑)を採用
  • [ ] 高リスク(🔴赤)のみ詳細レビューする運用ルールを決定

運用定着フェーズ

  • [ ] 新規導入時は利用開始前の台帳登録を義務化
  • [ ] データ種別・提供先・用途変更時の再レビュープロセスを確立
  • [ ] 四半期ごとの棚卸し確認(各部署オーナー)をスケジュール化
  • [ ] 台帳更新を申請・調達・変更管理フローに統合
  • [ ] 「取り締まり」ではなく「安全に使うための支援」という方針説明を準備

まとめ

3つの重要ポイント1.AIガバナンスの第一歩は「見える化」 AIインベントリ(台帳)なしに、リスク管理も監査対応も始められません

  1. 最小項目でスタートし、段階的に深化 7項目の台帳からスタート → 高リスク(🔴赤)のみ詳細化する二段階方式で運用を継続

  2. 更新は業務フローに組み込む 「お願いベース」では形骸化します。申請・調達・変更管理プロセスに台帳更新を統合することが成功の鍵


参考資料(公式・一次情報)

日本政府のガイドライン

国際標準・フレームワーク


免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としており、法務・監査に関する個別助言ではありません。実際の運用にあたっては、貴社の社内ルールおよび専門家にご確認ください。