結論:最初の目的は「止血」と「事実整理」
生成AIに関する事故が疑われた場合、最初にやるべきことは 被害拡大を防ぎ、説明可能な事実を押さえること です。原因の特定や再発防止は、初動対応が落ち着いてからでも遅くありません。
なぜ初動対応が重要なのか
生成AI関連のインシデントには、次のような特徴があります。
- 事実関係(誰が・何を・どう使ったか)がすぐに分からない
- 出力結果が拡散・再利用されやすい
- 「AIがやった」という説明では責任の所在が整理できない
このため多くの企業では、従来の情報セキュリティ事故と同様に初動対応を型化 し、判断の迷いを減らしています。
用語解説
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| AIインシデント | 生成AIの利用により、誤情報・情報漏えい・権利侵害などが発生または疑われる事象 |
| 初動対応 | 事故発生直後に行う、被害抑制と事実確認の行動 |
| 止血 | 被害の拡大を止めるための一時的な対応 |
AIインシデント初動対応の5ステップ
ステップ1:影響が出る利用を一時停止する
迷ったら止める のが原則です。該当する生成AI利用を 一時的に停止 します。
- 該当アカウントの利用停止
- 問題のある出力の社内共有・対外公開の停止
- 委託先が関与している場合は作業中断の連絡
「原因が確定したから止める」のではなく、不確実な間は止める という判断です。
ステップ2:事実関係を最低限で整理する
5Wを完璧にする必要はありません。最初に押さえるべき最小項目は以下のとおりです。
- いつ発生したか(日時・期間)
- どの業務で使われたか
- どの情報が入力・出力された可能性があるか
- 社内・社外の影響範囲
詳細な技術分析や原因追及は、この段階では不要です。
ステップ3:関係部署を早めに集める
情シス単独で抱えない ことが重要です。AIインシデントは単一部署で完結しないことが多いため、早期に関係者を巻き込みます。
| 部署 | 役割 |
|---|---|
| 情シス | 技術・ログ確認 |
| リスク管理/コンプライアンス | 影響評価 |
| 法務 | 外部説明・契約確認 |
| 広報 | 対外発信が必要な場合 |
早めに共有することで、後からの説明が楽になります。
ステップ4:外部への影響有無を切り分ける
対外影響の有無が対応の分岐点 になります。次の点を重点的に確認してください。
- 顧客・取引先・一般公開への影響があるか
- 個人情報・機密情報が含まれる可能性があるか
- 修正・回収が可能な状態か
対外影響あり と判断される場合、対応は通常のAIガバナンス範囲を超えるため、社内ルールに従った事故対応へ移行します。
※法的義務の有無は個別に確認が必要です。
ステップ5:初動対応の記録を残す
後から説明できること が重要です。初動で行った判断と行動を簡単に記録します。
- いつ、誰が、何を判断したか
- 停止・是正した内容
- 未確定事項(調査中の点)
完璧な報告書は不要です。ただし、メモがないと後で説明が困難になります。
よくある失敗パターン
| 失敗パターン | 対処法 |
|---|---|
| 原因究明を最優先して動けなくなる | 初動では止血と事実整理が先 |
| 「AIが勝手にやった」で終わらせる | 利用・管理の責任は組織側にある |
| 影響が小さいと決めつけて共有しない | 後から影響範囲が広がるケースがある |
| 海外規制や報道事例をそのまま当てはめる | 国内法や契約条件は個別確認が必要 |
AIインシデント初動対応チェックリスト
- [ ] 該当する生成AI利用を一時停止した
- [ ] 最低限の事実関係を整理した
- [ ] 関係部署に早期共有した
- [ ] 対外影響の有無を切り分けた
- [ ] 初動対応の記録を残した
参考資料
- 経済産業省:AI事業者ガイドライン(第1.1版)
- 経済産業省:サイバーセキュリティ経営ガイドライン
- NIST:AI Risk Management Framework 1.0
- OECD:AI Principles
※本記事は一般的な情報提供であり、法務・監査の個別助言ではありません。最終判断は社内ルールおよび専門家にご確認ください。